• 遺言相続

Q.相続放棄者の管理義務

  • 相続放棄

1 令和3年民法改正の内容

 令和3年民法改正により、相続放棄者の管理義務の内容が以下のように変更されましたので、令和5年4月1日以降の相続放棄には、改正後民法が適用されます。大きな違いは、「現に占有しているときは」との限定が入った点です。

(改正前)

「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」

(改正後)

「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」

2 「現に占有しているときは」の意味?

 この点について判断した裁判例はまだありません。
 公開されている民法改正時の議論では、「『現に占有』とは、相続放棄をしようとする者が被相続人の占有を観念的にのみ承継している場合を、本文の義務から除外する趣旨であって、本文の適用対象が、財産の占有態様が直接占有であるか間接占有であるかによって区別されることを想定しているものではない。」(民法・不動産登記法部会資料45・5頁)とされています。

 占有とは、自分が利益を受ける意思で物を現実的に支配してる状態です(民法180条)。例えば、田畑を耕して、収穫した物を手にしていれば、田畑の占有ありとされます。
 直接占有・間接占有とは、物を直接的に支配しているか否かによる区別で、例えば、賃借人には直接占有があり、賃貸人には間接占有があるとされます。

3 「財産を保存しなければならない。」の意味?

 改正後民法940条2項は、940条1項の場合に、委任に関する規定(受任者による報告の民法645条等)を準用しています。では、周辺住民から、民法940条を根拠に財産放棄をした建物の管理について報告を求められることはあるのでしょうか?

 「民法・不動産登記法部会資料45・5頁」によると、「この義務の相手方は、現行の民法第940条1項と同様に、他の相続人も含む相続人(又は相続財産法人)である」と解されています。
 したがって、周辺住民から、民法940条を根拠に報告を要求されることはありません。相続放棄されて荒れている建物の倒壊で危険が及びそうな場合には、周辺住民は、所有者不明土地・建物管理命令の請求を行い、管理人に建物の取り壊してもらうことになります。なお、取壊し費用相当額の予納金納付が必要です。